年が明け世間のエンジンが温まってくるころには、年末の落ち着いた時間を忘れるようにいつもの日常に戻っている。2月になり春節でSNSが賑わう中で、学生時代にベトナム人コミュニティの旧正月を祝う会で暖かくファミリーの一員として迎えてくれたことを思いだした。生春巻き、フォー、卵巻き(おそらくバインセオ)、ソーセージ、餃子。普段見慣れない手料理が並ぶなかで、その中でも魚の肝をすりつぶしたディップソースがあった。これを食べた日本人が何人いるだろうか。そしてそれを美味しく食せる人が。
『Food builds comunnity』Netflixの「Queer Eye」にてアメリカのフィラデルフィアにある教会のリーダーであるNoahが言った言葉だ。それを体現するかのように、体がディップソースを受けつけず思わず嗚咽する姿で笑いあい、ファミリーになったあの時間が大好きで忘れられない。春節の時期になると何年も前の出来事にも関わらず赤いカーペットで桜色のソファが置いてあるあのベトナムパーティの「あの絵」が思い出させる。
自分とは異なる文化で育ったある人々が人生に与えた影響は計り知れない。このようなことは僕らの中に存在していて、それは語れるものだと思う。
先日行われた第56回スーパーボウルでのハーフタイムショーでは、歴史上初めてヒップホップがフィーチャーされた。ぼくが、洋楽の扉を開くトリガーになったのはハーフタイムショーで、2011年のBlack Eyed Peasを皮切りに、Madonna、LMFAO、Nicki Minaj、Beyonce、Bruno mars、Katy Perryといった人気者をどうにかリアルタイムで見れないかインターネットで奔走したものだった。映画「8 Mile」の主題歌である「Lose Yourself」のイントロが流れてエミネムが登場し、隣でSilk Sonicでお馴染みのアンダーソン・パークが笑顔でドラムを叩く。最後に出演者全員参加でドクター・ドレーの「Still D.R.E」を歌った。ここで注目したのが彼らの年齢だ。ドクター・ドレーが57歳。スヌープ・ドッグが50歳。メアリー・J. ブライジが51歳。そしてこれまで56回の歴史で史上初めてヒップホップがフィーチャーされる。
『一以貫之』。ひたすら一筋の道を歩いてきたなかでヒップホップ界のレジェンド達が今回パフォーマンスをすることでまた誰かのきっかけになったに違いない。
春節もスーパーボウルも日本の中で開催されるものではない。しかしそれを体験した人々や地域、文化が僕の人生に影響を与えた。もう少しするとパンデミックの終わりに向かう世界中でこのようなことが同時多発的に発生し、影響を与えあう暮らしがやってくる。そんな出来事が目の前にやってきたときに、誰かへ語るものになることを思いやり、暖かく迎えたい。