本屋の一角に「暮らし・生活」というカテゴリーがありスキンケアや料理・衣類・洗濯など幅広く本が陳列されている。
タイトルには9つの方法、10着しか持たない、44のやることなど数字が掲げられるものや、トイレを代表とするあまたの神様が並んでいる。
モノを持たずに暮らすのは厳しく、そうでなかったものも必需品となり我々はモノに囲まれ生活している。
そんな"モノ"に対して考えるきっかけがあったので、読者の皆様にも目の前のモノを手に取っていただき一緒に考えていきたい。
介護施設に入居したため誰も住んでいないマンションに立ち合うことがあった。
時代を感じる小物・食器・趣味のモノ・家具で部屋が溢れており、その部屋は時が進まずに無人の暮らしを続けていた。
リユース事業者は片付けや遺品整理という案件でそのような場所に入ることがあるという。
普段の暮らしでは触れないものに出会うことから、その時間は「宝探し」に近い感覚があるようだ。
これが他人の持ち物であるかと、自分もしくは親族の持ち物であるとではその感覚も変化していくかもしれない。
マンションを去りながら考えて出したことは【いずれこの状況を作り出す側になるときに何ができるか】【自分を囲むモノの価値とはなにか】ということだ。
なぜそれを所有しているのか。
捨ててももう一度手にしたいものなのか。
自分の大事なものは、他人にとっては大事なものなのか。
最後は捨てるのか、売るのか、必要な人に譲るのか。
それらと向き合うために本よりヒントを得て「一ヶ月間毎日モノを一つ捨てる」ことを試みた。
引っ越し前に排水口に設置し活躍していたヘアキャッチャーはいまの住居では不要であった。
取っておいた包装箱を取り出すと収納の半分が空いた。
ほとんど出番がない赤ペンを取り出すとペン立てに余裕が生まれた。
ある本を手にした時にそれを所有している理由が腑に落ちる瞬間があった。
古本屋で見つけた短編小説で、男女の目線が何度も切り替わって展開していく内容である。
女性側のときは男性が昇進とゴルフ三昧で相手してくれなくてさみしさが伝わる内容であり、
男性側のときは曖昧にし続けた関係に決着をつけるため結婚を決意して、平日夜と土日を返上して住居の準備とプロポーズのために女性を相手にできず忙しく駆けまわるという内容だ。
物語が好みであるのはもちろん、男女の違いや他者理解の第一歩になったことが所有している理由でもあった。
その本は一度手放して手に入れたものであったが、今回はなにか"完了"した気持ちになり手放すことにした。
一ヶ月間モノを捨てづつけた気づきは、所有している理由と向き合うと自分が知れるということだ。
何度も見ているはずの写真は今後も"完了"することなく手放すことはないだろうし、短編小説を読んだという記憶は自分の中に在り続けることも変わりない。
物質的なモノを減らす作業が内的な価値観や幸福に気づくきっかけとなった。
整理収納アドバイザー・Emiさんは【大人の片付け(マガジンハウス)】にて以下のように語っている。
いらないものを探すんじゃなくて「大切なもの」を選びとることが大事
(片付けは)やりたいことをやるためにするものだと思っています。だから目的でなく通過点。
嫌いなものに囲まれて暮らしたい人はいない。
誰でもできる片付けを通して、理想の暮らしを最新版に更新し続けたい。