「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」 

 有名なこのフレーズは、政治アナリストとして活躍する伊藤惇夫さんという方がメディアで発信した言葉である。データ上は問題のない数字だとしても、都合の良い見せ方というのは存在する。 

 大手メディアや専門の学者が出した数字であっても、盲目的に信じるのは危険である。その裏には、”誰かにとって都合の良い何か”が存在しているかもしれないからだ。 

 

 「日本の離婚率は3割」は本当か

「日本では3組に1組が離婚する」

こんな話を聞いたことはあるだろうか。 

googleで「離婚率」と検索をすると、それらしい記事が検索上位に多く見受けられる。果たして、このデータは正しいのだろうか? 

 

では、皆さんの日常に戻って考えてみてほしい。 

3組に1組が離婚しているということは、100人の会社だとすると、単純計算で33人ほどが離婚経験者ということになる。同窓会で集まったとき、クラスの1/3が離婚している状態。これは、現実的に考えていかがなものだろうか。 

実はこの数字の裏には、このようなデータが隠れている。

参考:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei19/dl/02_kek.pdf 

2019年度の厚生労働省の調査によると、日本の離婚件数は約20万9000件。一方、婚姻件数は59万9000件というデータが得られた。この2つの数値から、 

20万9000 / 59万9000=0.34... 

という数字が導き出され、およそ3組に1組が離婚している、のだとという。

 

この数字の出し方について、勘の良い方はすぐにおかしいと気づくだろう。 

今年の離婚件数は20万9000件。
今年の婚姻件数が59万9000件。 

「離婚率」を出したければ、今年の婚姻件数は関係がない。なぜなら、離婚した件数の中には、今年結婚した人もいれば、30年前に結婚した人もいるからだ。  

もし正しく離婚率を出したければ、「これまでの離婚総数」と「これまでの婚姻総数」を比較する必要がある。今年の離婚率を出したければ、「今年の離婚総数」と「今年続いている夫婦数」。

この件は、そもそも導き出す数値の比較に問題があったのだ。 

誰が、何を、どのようにして作られたデータか

今回、わかりやすい例を題材として出したが、見せ方や導き出し方、聴取の仕方など、数字は間違った情報や勘違いしやすい情報を簡単に作り出すことができる。 

もちろん、数字自体を改ざんしたりするのは違法行為だが、都合の良い情報を作ることは多くのメディアや企業が当たり前に行っていると思った方が良い。 

例えば、「渋谷で20代100人に調査」した結果と、「図書館で勉強している20代100人に調査」した結果。調査題材によっては、全く違った結果になることは容易に想像がつくだろう。それを、「東京在住の20代に調査したところ・・」という表現を使うと、それが東京の平均であるかのような意味に捉えられてしまう。 

「誰に」「何を」「どのように」して取得したデータなのか。 
そして、その目的は何なのか。 

大事なことは、データの裏を考えることだ。 

都合の良いデータを作ることはできる

私が調査会社で働いていた時、とある企業から「デザインに関するアンケートを聴取してほしい」という依頼を受けた。その企業からは、アンケートの聴取するとき「指定のデザインを一番上に固定」するよう指示があった。

BtoC向けのアンケート調査というのは、基本調査会社が代行して行う。どのようにして調査するかというと、調査会社のモニター会員に登録している人に、アンケートを配布し、その結果を元にデータを作る。

会員はなぜモニターに登録するかというと、アンケートに答えることでポイントがもらえて、それが色んなモノと交換できるからだ。つまり、ポイント欲しさにアンケートに答える。  

そうすると、どのようなことが起きうるか。アンケートに回答するモニターの中には、効率よくポイントを欲しいがために、あまりアンケート内容を読まずに、一番上にある回答欄を適当にクリックするという人が一定数現れる。 

調査会社は、そのような回答者によって情報の偏りが出てしまわないように、表示される回答欄をランダム設定にする。ただ、そういった回答者心理を知っているであろう企業が、自社のデザインが一番人気であることを示したいがために、自社のデザインを回答欄の一番上に固定するように依頼をしてきたのだ。

もちろんこれは稀な例だが、「数字を盲目的に信じる」ことは、このようなマーケティングの罠にまんまとハマってしまうことにも繋がる。

データは客観的指標を得るために非常に重要であるが、それが必ずしも真実であるとは限らない 

何度も言うが、データを見るときには「誰が」「何を」「どのように」して導き出したデータ何か。そしてその目的は何なのか。誰かにとって都合の良い見せ方はされていないか。 

それらを考えた上で、時にはデータに自分の視点や経験を織り交ぜながら、自らの解を導き出していくこと。数字に捉われすぎないようにするためには、そのような考えが重要なのかもしれない。 

おすすめの記事