『真実はいつもひとつ』でお馴染みの映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』を鑑賞してきた。2020年に公開日が1年延期されたこともあったが、2015年から継続して映画館で見てきた。今回はハロウィンシーズンの東京/渋谷が舞台であり、2015年から一緒に見てきた友人が予約した映画館が渋谷にあったため、意図せず自動的に「聖地巡礼」していた。
マンガやアニメなど作品にゆかりのある土地を訪ねる旅は「聖地巡礼」と呼ばれている。それ以前は映画やドラマの撮影場所を訪ねる「ロケ地巡り」があった。1990年代には北海道富良野市が舞台のドラマ『北の国から』がきっかけに代表的な観光地に変化している。「聖地巡礼」と「ロケ地巡り」の前身として「ミラージュ・ツアー」という小説の舞台をなった場所を尋ねる観光行動があったとされている。
TOGAKU News UPの記事では、18世紀ごろのヨーロッパでは文学作品を訪ねる旅があったと紹介されている。そこでは「神話や文学作品の舞台を見ること」を動機にして旅をしており、19世紀にはイギリスにて世界初の旅行会社が誕生。イギリスの人々が『ロミオとジュリエット』の舞台であるイタリア・ヴェローナを訪ねることをきっかけに観光が産業へと変わっていったようだ。
聖地巡礼は「コンテンツ・ツーリズム」と呼ばれており、経済効果についても特徴的である。「小説『赤毛のアン』の舞台となるカナダ・プリンスエドワード島はその付加価値からリゾート目的の観光客よりも赤毛のアン目的の観光客の方が多くお金を落とすというデータがある」と述べる。
日本の聖地巡礼では、アニメがまちづくりや町興しの役割を担っている。あるケースでは最初に聖地巡礼者に対してどのように対処すればよいかわからずに、意見を求めてオリジナルのグッズを作成したり、出演する声優を招いたイベントを開催するなど試行錯誤した。その結果、正月三が日の参拝者数を5年で34万人増させたという記事があった。
光があればもちろん影もある。New York Timesの記事によるとアニメ界はビジネスとしては非常に好調で、日本のほぼすべてのアニメスタジオは数年先まで予約が埋まっており、ネットフリックスは、2020年に同社のストリーミングサービスでアニメを視聴した世帯数が、前年比で50%増加したと発表した。近年アニメ界は次々と新作を発表し、放映時間が増加している。新作を発表するために制作に負担がかかっている。特に下流のイラストレーターには恩恵が届いていないようだ。
これはアニメスタジオに一定のギャラを支払い、玩具メーカーや出版社などで構成される製作委員会がロイヤリティを確保する制作システムによって、利益がスタジオから切り離されている。多くのスタジオが製作委員会にギャラの引き上げや利益配分を交渉するよりもアニメーターをフリーランスで雇うことでコストが下げる手段を取っている。
2050年に向かって今後はモノ消費型産業は縮小し、生活を豊かにする価値追求型の消費の割合が拡大する予想が立てられている。早く手を打たないと、有望な若い人材がより良い生活ができる仕事を求めて脱落し、いつか業界が崩壊してしまうかもしれない。「バーロ」な未来にならないよう、消費者だけでなくクリエイターも含めてどのようにすると「安心して暮らせる」か、仕組みや制度を設計していかねばならない。