最終学年初日だからと言って、ずっとセンチメンタルではいられないようだった。始業式が終わり、教室で担任から告げられた連絡事項で、教室は一気にどんよりした。
「来週の火曜日に、実力確認テストあるから。ちゃんと二年生の復習しておけよ~」
「先生、テスト範囲どこですか?」
「さあ。……まあ、模試みたいなもんだから、がんばれよ。」
担任は生徒の問いかけにも慣れているのか、適当に返事をしていた。
「先生、テスト範囲どこですか?」
「さあ。……まあ、模試みたいなもんだから、がんばれよ。」
担任は生徒の問いかけにも慣れているのか、適当に返事をしていた。
「じゃあ、今日はこれで終わりで。さようなら~」
担任は、生徒からの文句から逃げるように、教室を立ち去った。
担任は、生徒からの文句から逃げるように、教室を立ち去った。
きっと進路が決まるまで、ずっと点数とか、偏差値とかがついて回るんだろうなあと思うと、なんだか気が滅入る。
わたしの進路希望調査票は、今でもまだ、「大学進学」以上の文字を書けないだろう。もやもやした気持ちを、奥に押し込めるかのように、筆記用具を机の引き出しにしまい込んだ。
「始業式後にも部活やるって、うちら真面目じゃない?」
部長は、体育館に部員がそろうのを待つ間、話しかけてきた。
部長は、体育館に部員がそろうのを待つ間、話しかけてきた。
「まあ、木曜日だからね。」
「出た、遥夏のローテンション。つまんな。」
「つまんないって失礼だな。ってか、そんなこと言うなら、ほかの子に言ってよ。」
わたしは部長に文句を言いながら、髪の毛を結び直していた。
「出た、遥夏のローテンション。つまんな。」
「つまんないって失礼だな。ってか、そんなこと言うなら、ほかの子に言ってよ。」
わたしは部長に文句を言いながら、髪の毛を結び直していた。
部長は笑いながら隣でストレッチをしていた。
ぱらぱらと部員が集まってくるのと一緒に、顧問が体育館に入ってきた。
ぱらぱらと部員が集まってくるのと一緒に、顧問が体育館に入ってきた。
「あ、あっきー先生きた。お~い」
部長はそう言いながら、顧問に手を振った。それに気づいた顧問は、ふんわりと笑って手を振り返していた。
部長はそう言いながら、顧問に手を振った。それに気づいた顧問は、ふんわりと笑って手を振り返していた。
「大平さん、お疲れ様~。みんな初日からがんばっててえらいねえ。」
「でしょ~。やっぱ、あっきー先生は分かってくれるわ~。」
「でしょ~。やっぱ、あっきー先生は分かってくれるわ~。」
期待通りの顧問からの言葉で、嬉しそうに伸ばした語尾が終わるころには、わたしに目線が向けられていた。
素知らぬ顔をしていたら、ちょっと睨まれたけどいつものことだったので、気にしなかった。顧問は、そんなわたしと部長の様子を見ながら、にこにこしていた。
「相変わらず仲良しさんだねえ。あとちょっとで、一緒に部活できなくなっちゃうの寂しいなあ。」
顧問はそういいながらこちらに向かって微笑んでいた。
顧問はそういいながらこちらに向かって微笑んでいた。
「ね~。あっきー先生、今年担任じゃないし、引退したら話す回数減っちゃうし、さみしい~」
部長はそういいながら顧問に駆け寄った。顧問は部長の様子を見て、少し嬉しそうな顔をしていた。
部長はそういいながら顧問に駆け寄った。顧問は部長の様子を見て、少し嬉しそうな顔をしていた。
「そうだね。卒業しても、部活に遊びに来てくれてもいいからね。そしたら先生嬉しいな。」
「絶対来る!」
部長は顧問に向かって目を輝かせながら言った。そこからまたわたしの方を見て口を開いた。
「絶対来る!」
部長は顧問に向かって目を輝かせながら言った。そこからまたわたしの方を見て口を開いた。
「卒業旅行から帰ってきたらさ、お土産渡しに遊びに行こうよ。」
「その前に、卒業旅行行くの、今初めて聞いたけど」
「言わなくてもわかるでしょ、先輩とか、みんな行ってるじゃん。」
部長は何かを言いたそうな顔をしていたが、聞くのはやめた。
「その前に、卒業旅行行くの、今初めて聞いたけど」
「言わなくてもわかるでしょ、先輩とか、みんな行ってるじゃん。」
部長は何かを言いたそうな顔をしていたが、聞くのはやめた。
イベントごとが好きな部長だから、きっといつかはそういう話をするだろうなと思っていたけど、そこにわたしも頭数に入っていたのか、と少し安心したような気持ちになった。「いいなあ、卒業旅行かあ。」
顧問がひとり言のようにつぶやいた。
顧問がひとり言のようにつぶやいた。
「え、あっきー先生、卒業旅行とか行かなかったの?」
「高校生の時は行ったけど、大学の時は、行けなかったんだよ。」
「……なんでですか?」
「先生が卒業する年に、ちょうど感染症が流行ってね。海外旅行、できなくなっちゃったんだよねえ。」
「高校生の時は行ったけど、大学の時は、行けなかったんだよ。」
「……なんでですか?」
「先生が卒業する年に、ちょうど感染症が流行ってね。海外旅行、できなくなっちゃったんだよねえ。」
顧問は変わらずにこにこしていたが、どこか悲しそうな表情に見えた。そして、そのまま話続けた。
「節目の年って、思い出たくさん作りたいじゃない?……先生は楽しい思い出が、最後に作れなかったから、ちょっと心残りで。」
「そっかあ……」
部長は俯きながら、小さい声でつぶやいた。
部長は俯きながら、小さい声でつぶやいた。
「だから、みんなにはたくさん思い出作ってほしいし、ちょっとした理由でもいいから、顔見せてくれたら嬉しいな。気軽に会えるって、とっても貴重で素敵なことだから。」
そう言いながら、微笑む顧問の表情は、いつもの笑顔と違った。
言葉以上の「なにか」を、押し殺したような笑顔だった。
言葉以上の「なにか」を、押し殺したような笑顔だった。