私たちは、あらゆるカテゴリの中に生きています。
「家族」「会社」「地域」「世代」「趣味」‥
カテゴリが作られるときには、必ず「その中にいる人」と「それ以外の人」という区分けがなされることになります。カテゴリ内の結びつきが強ければ強いほど、その線引きも強く反映されるでしょう。
近年では、同時多発的に世界で戦争が勃発しており、国や宗教観を巡った争いが過激になっています。一方で、ネット上では「浮気」や「差別発言」のような個人レベルの問題に対して、あらゆる無関係者がコメント欄で言い争う場面も目にします。
大枠でいうと、これらも同じ「カテゴリの内と外」という概念があってこそ生まれる、人同士の醜き争いと言えます。
では、そんなカテゴリ形成は、どのような心理状態でなされるのでしょうか。
なぜ人は、自分の外側にいる人に対して攻撃的になってしまうのでしょうか。
今回は、カテゴリ形成の中で生まれる人の心理について話していきたいと思います。
人間関係を円滑にする「協調性」
人との関わりの中で大切な能力に「協調性」とキーワードが挙げられます。協調性は、人間関係をうまくやっていく上で重要な能力と言えるでしょう。
では、協調性が強まる場面では、人の身体にはどのような変化が起きているのでしょうか。京都大学の高橋准教授が、「最後通牒ゲーム」というゲームを通じて人の振る舞いについて実験を行っています。
最後通牒ゲームのルールは、以下のとおりです。
配分が不当だと感じたら、Bさんは拒否権を発動することができます。
しかし、このルールでは、1円以上の分配がされたとき、配分がどれだけ不当だと感じようとも、拒否権を発動しないのが合理的な判断と言えます。なぜなら、Bさんは拒否権を発動すると自分の取り分が「0」になるからです。
しかし、実際には配分が不当だと感じた時、拒否権は発動されてしまいます。なぜなら、不当な配分に対して「相手の利益を許さない」という心理が働くからです。
そして、この「拒否権」を発動しやすい人には、ある共通が見られるということがわかりました。
ビッグファイブによる人格検査
ビッグファイブと呼ばれる世界標準の人格検査と照らし合わせてみると、この結果に面白い相関が見られます。
実験前、拒否権の行使は「攻撃性の高い人」との相関が見られると予測されていましたが、結果は逆で、協調性の高い人ほど拒否率が高かったのです。
つまり、普段は誰かのために動けるような真面目な人ほど、不公平な仕打ちを受けると自己犠牲をしてまで相手に制裁を与えようと動く、ということが考えられます。
不当に利益を得ようとする人は、社会にとってマイナスだという観点からでしょうか。他人のために動けるということは、場合によっては革命的な、場合によっては恐ろしい行動をとる可能性を秘めているのかもしれません。
ルールを重んじる文化
最後通牒ゲームは、「できるだけ得をしたい」という気持ちと「相手にもある程度得をさせたい」という気持ちの綱引きを、どのあたりに決着させるかというのを見るものです。
その落とし所が、その人の性格や相手との関係性で変わるのがこのゲームの面白いところですが、全体傾向としては、配分権を持つ人が7〜8割を取る、というところに落ち着くそうです。
当然、相手への配分を多くする人の方が「利他行動をとりやすい人」ということになるのですが、そういった人が相手から不当な仕打ちを受けると、リベンジに出ることが指摘されています。
つまり「私は利他行動をとっているのに、なぜあなたはとらないのか」「あなたも利他的に振る舞うべきだ」という気持ちの裏返しが、「利他行動を取らない人にはペナルティを与えるべき」という気持ちになるということです。
そして、その特性というのが「協調性の高さ」であり、協調性の高い人たちは、セロトニントランスポーターと呼ばれるタンパク質の密度が低い傾向にあるともわかっています。身体の根本的な仕組みが、その人の性格特性にも現れるということです。
実は日本人は、セロトニントランスポーターの少ないタイプが世界的に見て最も多い人種であるというデータがあります。
これは、よく言えばルールを最も重んじる人種、悪く言えば「不正を許さない」「不正をした人には罰則を与えたい」という気持ちが最も強い人種であると言えます。
有名人の不倫、政治家の失言、YouTuberの不適切な振る舞いでここまで炎上してしまうのも、日本人特有のことなのかもしれません。
この性質が良い悪いという議論はここではしませんが、自分も含めた私たち日本人がどういう特性を持った人種なのかを知ることで、今後の振る舞いや発言の参考になることはあるかもしれません。