恵比寿のカフェで打ち合わせ終了後に、ゲストの方が日本酒好きということでお蕎麦と日本酒のお店に向かった。「現地集合で」と連絡しながらお店に向かうの長い坂道で全員が合流し、「年末ぶりですね」と挨拶を交わしながらともに目的地に到着した。リモートワークが当たり前になり、「誰かと歩く」それも複数人で歩く、というのが久しぶりだったのかとても心地がよかった。
この2年間で外食の回数が減ったからか、1回の外食にかける過ごし方の意識や意味について捉え方が変化したかもしれない。自宅では作れない味や空間などの要素、デリバリーでは届かない作りたての料理や従業員さんとのやり取り。日本酒の多さに迷う私たちはお勧めされた通りに一杯目はビールで乾杯した。
『Craft Beer & Brewing』の記事では「人類学者の中には、人間が狩猟採集生活から定住農耕生活へと移行したのは、大量のビールを醸造するのに十分な穀物を栽培するためであったと考える者もいる。」と冒頭で語られている。また、昆虫からゾウまで、フルーツコウモリからサルまで、事実上、動物界全体がエタノールの摂取を好む傾向があることが明らかであると伝えている。この記事ではビールの誕生についても述べられている。メソポタミアに世界初の文明を築いたシュメール人について紹介されており、砂糖入りパンを水に浸して自然発酵させてそれを濾し、栄養分やカロリーが豊富なものとしてビールを飲んでいたようだ。
シュメール人のビール文化はエジプトまで広がり、考古学者の研究によると紀元前3100年ごろまでにはビール醸造の技術が確立されていたことが明らかになった。エジプトの墓の内部には、瓶から長いストローでビールを飲む人々の絵が描かれているようで、金やラピスラズリで豪華に象嵌された権力者のビール飲み用のストローが今も残っていると紹介されている。
今読んでいるセネカ『人生の短さについて』は、ローマ帝国で食糧管理官を務める父親のパウリヌスに宛てた手紙とされる一説がある。多忙な生活から離れ時間を有効に活用することを学べば、人生を長くすることも可能であるというメッセージが込められている。2022年になった現代でも同じ悩みであるため、「2000年前から人間の本質や悩みは変化していない」などを考えた中で、それ以上のスケールでビールの歴史が存在していることに感動した。
古代のギリシャやローマはビールよりもワインが豊富であったようだが、ローマが領土拡大のために自国を離れて山を越えたところにいた人々は戦いに備えて防具をビールで固めていたと述べられている。プリニウスは『博物誌』の中で、「西ヨーロッパの民衆は、穀物と水から作る液体で酔う」「人間の悪癖や食欲を満足させる狡猾さは絶妙で、水そのものに酔いを生じさせる方法を発明してしまったのだ。」と記している。
ここまで起源について振り返ったが、今後もそれぞれの”ローマ軍”との戦に備えて、プリニウスの指摘通り「人間の悪癖の滑稽さ」を理解しつつも、歴史があり動物界全体が求める発明を必要になる場面があるだろう。次の一杯を飲むときにメソポタミア文明から続くスケールを感じながら、少しでも味や気持ちに変化があることを期待したいと思う。
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