「多様性」を受け入れる社会へと変わりつつある昨今。
人の個性を育むこと、活かすことが求められるようになってきている。
そうなってくると、「自分の個性は何か」「自分が大切にしたいことは何か」といったような、自分自身に対する理解が重要になってくる。
価値観、個性、強み弱み、趣味嗜好。
自分を創る様々な要素についての理解。
アイデンティティを確立し、育んでいくためにはどうすれば良いか?
その仮説について、ひとつの側面から考えていきたい。
テセウスのパラドックス
例えば、皆さんが不意の事故で利き手を失い、義手として生きることになったことを想像してみてほしい。
あなたの身体の一部である、大切な手。それを失うと、実生活に様々な問題が生じてくるだろう。これまでとは全く違った人生を歩むことになるかもしれない。
では、ここでひとつの問いを立てたい。
利き手を失ったあなたは、それでもあなただろうか?
もう少し分かりやすいように聞き方を変えよう。
あなたは、利き手を失ったあとの自分も「自分」であると考えるだろうか。
また、周りの人たちは、利き手を失ったあなたを見て、それをあなただと思うだろうか。
何を言っているんだ、そんなこと当たり前じゃないか。
なんてバカけた質問をするんだ。
そう感じた人に、続けて問いたい。
では、その人を創る様々な要素を、次々に別のものに代替していったとする。
手、足、目、鼻、口、心臓‥‥。
あなたを作る要素をひとつひとつ代替していったとして、あなたがあなたでなくなってしまうタイミングは、どのタイミングだろうか。あなたをあなたとたらしめる要素は、いったい何なのだろうか?
パラリンピックでは、義手や義足でスポーツに取り組む人たちがたくさんいる。
医療の発達により、臓器移植なんてものも、当たり前にできるようになった。
「人工心臓弁」というものがあるように、心臓の一部を代替することだってできる。
では、どのパーツを失った瞬間に、あなたのアイデンティティは失われるのだろう?
この問いは、「テセウスの船」という有名な話にもなぞらえて考えることができる。船のパーツをひとつずつ入れ替え、最終的に全てのパーツを入れ替えた時、その船は入れ替える前と同じ船と言えるのか、という問いだ。
学者や哲学者でも、意見が分かれる問いである。
参考URL:https://omochi-art.com/wp/ship-of-theseus/
参考URL:https://zunolife.com/theseus/
私はこの問題に向き合ったとき、人にとって最も重要なパーツは「脳」であると考えた。
もちろん様々な反論もあるかと思うが、人の記憶や性格を作るにあたって、脳は最も重要なパーツであるからだ。
脳はいかにして作られているか
例えば、いつも優しいあなたの恋人が、突然暴力的になったとしよう。
その様子を見たあなたは、恐らくこう思うだろう。
「私の知ってる〇〇じゃない」
過去のその人を知っているだけに、その違いを受け入れるのには時間がかかる。
私たちは、過去の連続性で他者を判断するからだ。
では、そんな私たちにとって大切な脳。
それは、どのようにして作られるのだろうか。
脳を作る上で重要な養分は、なんだろうか。
「ブドウ糖です」
「酸素です」
というのは、物質的な解。
これは、あなたを作る要素が「食事」「水分」といっているのと変わらない。朝ごはんが「パン派かご飯派か」で、アイデンティティに影響を及ぼすことは殆どないだろう。
アイデンティティという観点で見ると、脳を作る上で重要な要素は「情報」であると言える。
私たちの脳は、情報を得て育っていく。
毎日どんな情報を浴びているのか。
それがあなたの考えを作り、行動へと移る。
あなたのアイデンティティにとって大切なのは脳。
脳にとって大切なのは情報。
つまり情報は、あなたを作る最も大切な要素であると考えることができる。
情報は、ただの情報でしかない
問題は、そもそも「情報とは何か」ということ。
情報を得るというと、私たちは「ニュースを見る」「本を読む」といったような、座学的な視点にたどり着きがちだ。もちろん、それも情報のひとつ。
ただ、それらの情報はそのままではただの情報でしかない。身の回りにある情報は、あなたというフィルターを通して、初めて意味を持った情報としてあなたの中に蓄積される。
例えば、目の前にゴミが落ちていたとして、それをどう思うか。
観察していると、そもそもゴミの存在に気付かない人がいる。
気づいても、素通りする人がいる。
一方で、ゴミを拾ってゴミ箱に捨てる人がいる。
情報は確かにそこに横たわっていて、その情報をまず受け取れるかどうか。
受け取った上で、どう解釈し、行動するか。
それが、自分を創っていくうえで重要となる。
そういう意味では、人が変化するときには必ず「解釈情報の変化」がある。
自分をアップデートするうえで大切なのは、情報そのものではなく、情報を得たうえでの「解釈」である。
では、人の解釈はどのようにして変わっていくのだろうか。
人の解釈に違いがあるのはなぜだろうか。
目の前に落ちているゴミを、拾う人と素通りする人でどんな違いがあるのだろうか。
重要になるのは、新しい知識を身につけること。
そして、新しい「経験」をすることだ。
経験を重ねることが、自分を作り変える
新しい靴を買った直後に外を出ると、街中を歩く人たちの足元に目がいくようになった、というような経験はないだろうか。
仕事で言うと、建設系の人は建造物に目がいくとか、マーケティング系の人は広告に目がいくとか。
このように、私たちは何らかの経験を経ることで、受け取る情報に変化が生まれる。
ゴミ拾いに参加した直後は、やたらと街中に落ちたゴミに目がいくものだ。
私たちが、自分をより良くしよう、アップデートし続けようと思うのなら、経験を積み重ねるしかない。
思考が変わると、行動が変わる。
行動が変わると、経験が変わる。
経験が変わると、思考が‥。
そうやって、私たちは育っていくのだろう。
今日の経験が、自分を創るための養分になる。
そう思うと、色んなことにチャレンジしてみよう。
新しいことを始めてみようって思えるようになる。