小説 切手はどこへゆく 第二十八話 2024年2月6日 どさっと大きな音を立てて、日記帳を置いた。その風圧で真っ白な封筒が少し動いた。動いたところで、切手が出てくるわけではない。意味が分からなかった。手紙は、切手がないと届かないらしい。じゃあ、この切手のない手紙は、どうやって家に届いたのか。誰かが直接、郵便ポストに入れたのか。翠からの手紙だから、翠しか考えられない。でも、翠... SUZUME
小説 切手はどこへゆく 第二十七話 2023年10月11日 どのくらい時間が経ったのか、考えるのを忘れるくらいに翠と話を続けていた。話す頻度が減っても、顔が見えていなくても、ずっと話をできるのは、翠しかいないんじゃないだろうか。お互いくだらない話で笑い合ったあと、翠が唐突に話を変えた。「そういえば、遥夏ちゃん、手紙書いてくれた?」「あ~……手紙……」「絶対書いてないでしょ。返事... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十六話】 2023年9月5日 https://suzume-newsletter.com/?p=754 菜々と別れて、自転車をこぎ始めた。 予備校とか、進学塾とか、今まで派手な色だな、としか思っていなかった看板が、こんなに自分の身近なものだとは。文字としてだけ認識していたそれが、情報になってわたしを襲ってくる。駅前は情報量が多い。ため息が出そうだっ... SUZUME
小説 切手はどこへゆく 第二十五話 2023年8月3日 鉄板はいくらきれいにしても、また次のお好み焼きを焼き始めると、焦げ付いてくる。追加注文したお好み焼きも食べ終わり、制限時間が迫ってきたが、誰も話が尽きる様子はなかった。真凛の「デザートを食べたい」という声に全員が反応し、バニラアイスが届くのを待っていた。もう鉄板の出番がないことはわかっているし、きれいに鉄板をきれいにす... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十四話】 2023年6月26日 https://suzume-newsletter.com/?p=718 体育館を出て、駐輪場に向かった。 駐輪場につくと、わたしの自転車以外に置いてあった自転車が、数台なくなっていた。どうやらみんな、打ち上げ会場に向かったらしい。 ほんの10分間くらいで、自転車も、誰かの声も聞こえないくらい、みんなは学校から離れたら... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十三話】 2023年4月26日 https://suzume-newsletter.com/?p=690 もう引退しているはずなのに、土曜日に学校にいくのが、なんだか不服だった。 部長からの「部室の片付けを土曜にして、みんなでそのまま打ち上げしよう」というメッセージを、わたしが見逃して、みんなが盛り上がっていたから、文句のひとつも言えなかっただけだけ... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十二話】 2023年3月28日 https://suzume-newsletter.com/?p=675 ゴールを見つめている後輩の瞳に、光はなかった。どこにも焦点はあっていないし、体が動き出す気配も感じられなかった。この姿は、かつてのわたしだ。わたしのせいで負けた、そう思った時のわたしだ。 なにか言葉をかけなければ、そう思った。後輩に伝える言葉なん... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十一話】 2023年2月28日 https://suzume-newsletter.com/?p=645 練習は、あくまで練習なのだと、思い知らされたのは、高校生活最後の試合の日だった。 二回戦目で当たった高校は、ベスト8常連の強豪校だった。対戦表が発表された時から、ここが山場になると、予想はついていた。 対戦相手は、今まで公式戦では戦ったことはなか... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第二十話】 2023年2月7日 https://suzume-newsletter.com/?p=629 蒼太さんはこの前と変わらず、切れ長の穏やかそうな目をしていた。 小さく会釈するわたしを見て、優しく微笑んだあとに、古谷の方をちらっと見て、少し不思議そうな顔をしていた。 古谷を見ると、愕然とした表情をしていた。人の顔を見て、いきなり「え?」は失礼... SUZUME
小説 切手はどこへゆく【第十九話】 2023年1月17日 https://suzume-newsletter.com/?p=590 三上の提案に乗ったわたしと古谷は、自転車を押しながら駅前まで歩いた。三上は、古谷の自転車のかごに荷物を載せて、ずいぶん身軽な様子だった。 「チャリ通、楽でいいよなあ。電車乗らなくていいし。」「電車乗らなきゃ行けない高校選んだの、自分だろ。」「お、... SUZUME